談笑する川本さん

吉賀町の山の達人・川本さん ~林業一筋、自然と共に生きる知恵を次世代へ~

目次

    島根県吉賀町に、林業一筋で、84歳の今も現役として活躍している山の達人がいます。その名は川本さん。中学校を卒業して以来、人生のほとんどを山と共に歩んできました。

    「山の仕事が面白い」──林業への情熱

    川本さんが林業の世界に足を踏み入れたのは、中学時代のことでした。
    四国から来た職人たちが、高所用ケーブルを使って丸太を運び出す「架線(かせん)」の作業を目の当たりにし、「これは素晴らしい、面白い仕事だ」と心を奪われたのがきっかけでした。
    高校に進学したものの、「勉強するより山の仕事の方が面白い」と感じ、その情熱は冷めることなく、卒業後は本格的に林業の道へ進みました。
    民間の会社で技術を磨いた後、大手企業で定年まで勤め上げ、さらに嘱託としての3年間も、その経験と知識を現場で活かし続けました。

    定年後も、川本さんの山への情熱は少しも尽きることがありませんでした。
    「どうしても山に帰って、じっと一人でおるわけにはいかん」との思いから、今度は自分の山で「自伐型林業」を始めました。
    自ら木を伐採し、搬出して市場へと運びます。
    「全部自分のものになるし、運賃もかからない」と、その魅力を語っています。

    「山の学校」で伝えたかったこと──

    川本さんの活動は、林業の枠を超えて広がっています。
    平成20年頃、「子どもたちに山の素晴らしさを伝えたい」という思いから、川本さんは「山の学校」を設立しました。
    空き家となっていた倉庫を自ら改装し、宿泊も可能な体験施設へと生まれ変わらせました。

    そこでは、炭焼きや木馬(きうま)引き、ツリーハウス作り、枝打ち、間伐、植林などの林業体験はもちろん、竹スキーや雪合戦、かんじきを履いての雪上歩行、五右衛門風呂体験、ランプやローソクで過ごす夜、火の熾し方など、都会では味わえない貴重な自然体験プログラムが提供されました。
    子どもたちは目を輝かせながら、自然の中で生きるための知恵と楽しさを学びました。
    イタリア、フランス、エストニアなど、海外から訪れた若者たちとも交流を深めたといいます。

    「山の学校をこしらえたらどうだろうか」という川本さんの思いは、地域のエコビレッジの協力も得て現実のものとなりました。
    自然と共に生きることの大切さを、多くの人に伝える場となりました。※現在、「山の学校」は休止中です。

    山の学校の手作り看板山の学校の外観山の学校の内観。囲炉裏が懐かしい。

    84歳現役──「師匠」として若手を育成

    現在も川本さんは「師匠」として、2人の弟子に林業の技術を指導しています。
    「今朝も現場へ行ってきた」と語るように、自ら重機を操り、現場の段取りをつけるなど、その活躍ぶりは衰えを見せません。
    弟子たちには「人の後をついて歩くな、ものにならんぞ」と、厳しくも愛情のこもった指導を行い、次世代の育成にも力を注いでいます。

    また、地域のイベントにも積極的に関わり、門松づくりやしめ縄づくり、そうめん流しなどの手伝いも行っています。
    6メートルもの巨大な水車を自作するなど、そのチャレンジ精神と探求心はいまなお健在です。

    6メートルの大きさの水車川本さんと6メートルの水車

    自然と共に生きる──

    「生涯現役」を体現する、川本さんの姿。
    長年の経験に裏打ちされた知識と技術、そして自然への深い愛情は、今もなお多くの人を惹きつけています。
    山と共に生き、その恵みと厳しさを知り尽くした川本さんの姿は、私たちに自然との向き合い方を改めて問いかけているようです。

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